玉三郎は律義者

よく、「猫はマイペースなやつだ」と言われます。

しかしうちの玉三郎はなかなか律義なやつで、僕らの生活ペースに頑張って合わせてくれようとします。

仕事がら帰宅時間が不規則な僕ですが、どんなに真夜中の帰宅となって妻や娘が既に眠りについてしまっていても、彼は必ず玄関まで出迎えに来ます。そして僕が寝ている家族を起こさないようにとソーッとドアを開けて入ったところへ「にゃああぁ！(おかえりぃ！)」と大きな声で迎え入れてくれます。帰りの遅い日が続いた時などは毎晩「にゃああぁ！」「しーっ！静かに」のやり取りが繰り広げられます。

律義なのはそれだけではありません。普段は、寝室で娘が寝ついた後、玉三郎は僕か妻のどちらか気が向いた方(たいていは妻の方)に寄り添って眠ります。こうやって決まった時間に揃って就寝できる時はいいのですが、これもやはり仕事がらみで僕の作業が深夜にまで及んでしまう時には玉三郎もなぜか傍で付き合います。頼んだわけでもないのに付き合ってくれます。

娘と妻には寝室で先に寝てもらい、書斎で台本や映像のチェックをするのですが、玉三郎も書斎の出窓などに陣取り、眠そうに半目を開けた顔で長々と付き合ってくれます。

しかし彼には、僕が「仕事」のために必要に迫られて夜更かしをしているということまでは理解できないらしく、しばらく付き合った後に書斎のドアのところまで行って「にゃー(開けてー)」と訴えます。

作業を中断してドアを開けてやると出ていくのですがすぐに振り返ってこちらを見上げ「にゃー」。どうやら「あっちで寝ようよー」と言っているようなのです。「ダメだよ。お仕事だからね。まだ寝れないの」と言うとすぐまた引き返してきてしばらくの間、再び作業を続ける僕の傍らにて付き合います。

これを15～20分間隔で繰り返します。

あるいはこういうパターンもあります。同じようにドアの前で「開けて～」とやって、開けてやるとそのままのそのそ寝室の方へ行ってしまいます。そこで再びドアを閉めて作業を再開すると2～3分してドアの外から「にゃー」。開けてやると更に激しく「にゃあおぅ、にゃあおぅ」と訴えてきます。こういう時はどうやら「だから向こう(寝室)で寝ようって言ってんじゃんかー。先に行って待ってたのに来ないしぃ。みんなもう寝てるよー。寝ようよー」と言っているようです。で、結局仕方なさそうにまた書斎に入って来てしばらく付き合います。そして前述のパターン含めランダムに繰り返しです。

基本的にチェック作業の時には台詞を声に出すので、寝室で寝ている家族を起こさないように書斎のドアを閉めているのですが、さすがにこうも何度も繰り返されると仕事がはかどらないのでドアの隙間をちょっとだけ開けておくこともあります。玉三郎はこれを前足や身体でうまく開けて出入りすることもあるのですが、たまに出ようとして何を間違えたか両前足でドアを押してパタンと閉じてしまうこともあります。この時の「しまった…」というストップモーションの後ろ姿はとても可愛い。「はいはいはい」とドアのところまで行って開けてやるとちょっと小声で「にゃあ(かたじけない)」と言って出ていきます。

そんなこんなで玉三郎は僕が寝室に行くまでとことんこれを繰り返します。時々台本の上に乗って訴えかけたりもしながら。

昨夜などはチェック量が膨大だったのでかなりの回数、彼は行ったり来たりを繰り返しました。

さて、作業を終えて寝る準備を済ませ、寝室で僕が横になると彼もようやくお役御免とばかりに布団の上で眠りにつきます。

彼の中でなんらかの義務感が働いているのでしょう。なんにしても律義なやつです。