僕の夏休み。

　そういえば世間ではもう夏休み最終週なんですね。

　ぼちぼち溜め込んでいた宿題を前に焦り始める頃でしょうか？


　この時期になると忘れられない苦い思い出があります。

　夏休みの工作の宿題で僕と友達のＫ君は木製の折りたたみ椅子をそれぞれ一脚ずつ作ろうといって我が家の庭先で仲良く一緒に作業していました。ろくに設計図も描かずにいきあたりばったりで材木を切り、適当に釘を打つ二人。

　8月31日のよく晴れた暑い日でした。

　そして日が西の山に沈みかけた頃、Ｋ君がひと足早く椅子を完成させ、その時は二人で歓喜の声をあげました。

　「さっそく座ってみようぜ！」僕は興奮状態のままＫ君の作品であるそれに腰をかけました。その瞬間。

　バキィッ！！

　そう、作り始めたときからすでに二人の頭の中には「強度」という２文字は存在していませんでした。世が世なら強度偽装問題でかつらを被って記者会見です。

　一瞬、時が止まりました。

　後悔先に立たずとはこのこと。二人とも顔面蒼白になりました。

　しかしその後、心優しいＫ君は決して僕を責めたりはしませんでした。僕はＫ君に謝り続け、完成間近だった自分の作品を彼に譲りました。当然こちらも強度に問題大アリのものだったのですが。

　もちろんたとえ一緒に作業したとはいっても自分が作ったわけでもない作品を自分の作品として持たされるはめになったＫ君も複雑な心情でしょうが、その時の僕なりに考えた精一杯の償いはそうすることしかなかったのです。

　さぁ、残る問題は僕の宿題。提出日は明日です。

　その夜、事態を知った母が近くの材木屋から材料をかき集めて来て新しい作品作りを手伝ってくれました。

　いえ、嘘です。正確にはほとんどを母が作ってくれました。もちろん僕も助手として手伝いましたが。

　玄関で夜中までトンテンカントンテンカンと作業を続け、ついに完成しました。

　さすがに大人が作っただけあって見た目も立派で頑丈な椅子ができました。まして母はジャンルは違えど造形美術のプロですから。ただし折りたたみ機能という贅沢は言っていられませんでした。

　完成した作品を前にして、喜んでよいものかどうか複雑ではありましたが、親というものはすごいなと思ったものです。

　そして翌日、僕とＫ君はそれぞれ「折りたためない頑丈な椅子」と「折りたためるけど座れない椅子」を持って学校に行きました。

　ただ、共通点としてはふたつとも「大部分が自分で作ったものではない」ということです。

　ほとんどを僕の手によって製作された見るからに軟弱な椅子を持ったＫ君を見た時、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。



　この時期になると思い出す、苦い、夏休みの思い出の一席でした。