壊れかけのＲＡＤＩ夫

♪何も聴こえない…

♪何も聴かせてくれない…



…その時点ですでに「壊れかけ」ではなく「壊れている」んだと思うのですがね、ヒデアキさん。



ところで我が家のＲＡＤＩ夫こと、VictorのＣＤＭＤラジカセ君はまさに「壊れかけ」。ＭＤって最近すっかり使わない。このコがうちに来たのは14年程前。当時はＭＤが一般的に普及し始めたばかりの頃で、大学出たてのアルバイト生活だった僕にとってはこういうデッキはまだ高価な品だったけど、「これからはＭＤの時代だ！」と勢いつけて清水の舞台から飛び降りる思いでエイヤッと買ったのを覚えている。ＭＤの時代…短かったな…。

それから彼は四度の転居にもついて来てくれて、ある部屋ではあまりの湿度の高さにストライキを起こして動かなくなったこともあった。傾けたらＣＤトレイの隙間から水が大量にダァーと流れ出てきて、あれでよく復活できたものだと今でも信じがたい。

今では音楽をかけるのは専らリビングにあるコンポ君なので、このＲＡＤＩ夫君は書斎の出窓で沈黙の日々を送っており、たまに、それこそ月に１～２回、気まぐれに動かしてみる程度。哀しいことに日常生活において絶対必要な存在では無くなってしまった。

仕事をしなくなると衰えをみせてくるのは人間も機械も同じのようで、そんな彼ともついにお別れの時がやってきたようだ。

ある日久しぶりに動かしてみようとしたら電源が入らないのだ。正確には電源ボタンを押すと、一瞬ランプがついて動きかけるのだがすぐにランプが消えて動きも止まってしまう。二秒ともたない。電源を入れてすぐさまＣＤトレイを引き出す操作をしたら１センチほどだらしなくトレイを出した状態で止まる。

これはダメだ。音が出ないどころではない。ＣＤが入れられないし入っているＣＤは取り出すこともできない。トレイを無理矢理手で引き出す。ヴィ～と苦しそうな音を出しながらベェと引き出されたトレイから入れっぱなしになっていたＣＤを救出する。

仕方がない、次の粗大ごみの日に出そう、ということになった。

粗大ごみの収集日。念のため動かないことを確認しようと電源を入れてみた。

…動く。

こいつ、動くぞ！

アムロなみに驚いた僕はＣＤをかけてみた。

ちゃんと鳴る。

ＭＤもかけてみた。

問題ない。

なんだ、まったく大丈夫じゃないか！

その後、その日はしばらくＣＤをかけ続けてみた。彼も心なしか嬉しそうに音を奏でているように思えた。



数日後、再び彼が不調をきたした。先日と全く同じ現象。電源が入らない。

やっぱり寿命なんだ、次の粗大ごみの日こそお別れだ。

そして再び粗大ごみの日の朝。今度は妻が彼を運び出そうとしていた。

その時、書斎から妻がリビングにいた僕に声をかけてきた。

「また動いてるよ！」


彼には自分が捨てられそうになるのが解るんだ。捨てられたくないんだ。

そう思うとなんだか健気で、今度も捨てるのは断念した。

古来よりこの国では、物は100年使うと魂を持ち、「つくもがみ(付喪神)」に変化するといわれている。

たった14年だが、このコも意志を持って頑張っているのかもしれない。

もう少しだけ、僕の人生に付き合ってもらおう。